リーマンテンソル
以前の記事(リーマンテンソル・リッチテンソル・リーマン曲率)にて、リーマンテンソルとは空間の曲がりぐあいを表す量でした。平坦な空間で、ベクトルを並行移動させ閉曲線をぐるっと一周させても、ベクトル自体は変化しないですが、曲がった空間だとそうはなりません。つまり、リーマンテンソルとは、曲がった空間においてベクトルの閉曲線上で並行移動させ、並行移動前後でのベクトルの差のことです。
リーマン (Riemann) テンソルにはいくつか性質やそれにまつわる公式が存在します。この記事では、リーマンテンソルと、それを使って表されるアインシュタインテンソルの性質を、証明付きで載せています。
ちなみに、リーマンテンソルは
Rμναβ≡∂αΓμνβ−∂βΓμνα+ΓμσαΓσνβ−ΓμσβΓσνα
です!クリストッフェル記号Γλμνは(測地線方程式の導出)などを参考にしてください。
1. 対称・反対称な添字
リーマンテンソル (1)式をよく睨んでみますと、添字αとβについて対称です。対称な項をいちいち書くと面倒なので、次のような記法を導入しておきます:
Rμναβ=∂αΓμνβ+ΓμσαΓσνβ−(α↔β)
これによって、大幅に覚えることが少なくなりました。
計量テンソルでgμλでリーマンテンソルRλναβの上付き添字を下げた4階共変テンソルを考えてみましょう。つまり
Rμν,αβ=gμλRλναβ
です(カンマはこの後すぐの議論の見やすさのためにいれています)。このテンソルは(μ↔ν)の入れ替え、(α↔β)の入れ替えについて反対称で、ペアの入れ替え((μ,ν)↔(α,β))に対称です。つまり、
Rμν,αβ=Rαβ,μν=−Rνμ,αβ=−Rμν,βα
が成り立ちます。
2. 反変ベクトルに共変微分の交換関係を作用させる
共変微分自体、並行移動に関係する概念でした。これをリーマンテンソルを定義した議論のときの2通りの並行移動後のベクトルの差をとることと同様に、共変微分を2通り用意してベクトルに作用させて差をとってみましょう:
(∇μ∇ν−∇ν∇μ)Vα≡[∇μ,∇ν]Vα=RαβμνVβ
このようにリーマンテンソルが現れます。
Check
[∇μ,∇ν]Vα=∇μ(∇νVα)−(μ↔ν)=∂μ(∇νVα)−Γλμν∇λVα+Γαμλ∇νVλ−(μ↔ν)=∂μ(∂νVα+ΓανβVβ)−Γλμν(∂λVα+ΓαλβVβ)+Γαμλ(∂νVλ+ΓλνβVβ)−(μ↔ν)
とまで計算できます。ここで赤色の項がそれぞれ(μ↔ν)の中に異符号で現れるのでキャンセルされます。
すると、
[∇μ,∇ν]Vα=(∂μΓανβ)Vβ+Γανβ∂μVβ+Γαμλ∂νVλ+ΓαμλΓλνβVβ−(∂νΓαμβ)Vβ−Γαμβ∂νVβ−Γανλ∂μVλ−ΓανλΓλμβVβ
となります。この式では同じ色同士がキャンセルされます。
よって最終的に
[∇μ,∇ν]Vα=(∂μΓανβ−∂νΓαμβ+ΓαμλΓλνβ−ΓανλΓλμβ)Vβ=RαβμνVβ
を示すことができました。
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3. 共変微分のヤコビ恒等式
非可換の演算について一般に成り立つヤコビ (Jacobi) 恒等式は、もちろん共変微分についても成り立ちます:
[∇λ,[∇μ,∇ν]]+[∇μ,[∇ν,∇λ]]+[∇ν,[∇λ,∇μ]]=0
Check
[∇λ,[∇μ,∇ν]]+[∇μ,[∇ν,∇λ]]+[∇ν,[∇λ,∇μ]]=∇λ(∇μ∇ν−∇ν∇μ)−(∇μ∇ν−∇ν∇μ)∇λ+∇μ(∇ν∇λ−∇λ∇ν)−(∇ν∇λ−∇λ∇ν)∇μ+∇ν(∇λ∇μ−∇μ∇λ)−(∇λ∇μ−∇μ∇λ)∇ν=∇λ∇μ∇ν−∇λ∇ν∇μ−∇μ∇ν∇λ+∇ν∇μ∇λ+∇μ∇ν∇λ−∇μ∇λ∇ν−∇ν∇λ∇μ+∇λ∇ν∇μ+∇ν∇λ∇μ−∇ν∇μ∇λ−∇λ∇μ∇ν+∇μ∇λ∇ν=0
のように同じ色の項がキャンセルして、ヤコビ恒等式を示せます。
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4. (1,1)型混合テンソルに共変微分の交換関係を作用させる
後のために、(1,1)型混合テンソルTαβに共変微分の交換関係を作用させた結果
[∇μ,∇ν]Tαβ=RαλμνTλβ−RλβμνTαλ
を求めてみましょう。これはアインシュタイン (Einstein) テンソルの共変微分が0になるというビアンキ (Bianchi) 恒等式へ導出するための道具となります。
Check
- テンソルTαβの変換性が反変ベクトルVαと共変ベクトルωβの積と同じこと、
- [∇μ,∇ν]が微分演算子であり、ライプニッツルールに従うこと、
- [∇μ,∇ν]ωβ=−Rλβμνωλであること、
を用いると、Tαβ=Vαωβと書くことにして、
[∇μ,∇ν]Tαβ=([∇μ,∇ν]Vα)ωβ+Vα([∇μ,∇ν]ωβ)=RαλμνVλωβ−RλβμνVαωλ=RαλμνTλβ−RλβμνTαλ
と、示すことができました。
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5. 第一ビアンキ恒等式
Rλαβγ+Rλβγα+Rλγαβ=0
Check
Rλαβγ+Rλβγα+Rλγαβ=∂αΓλβγ−∂γΓλαβ+ΓλβκΓκαγ−ΓλκγΓκαβ+∂βΓλγα−∂αΓλβγ+ΓλγκΓκβα−ΓλκαΓκβγ+∂γΓλαβ−∂βΓλγα+ΓλακΓκγβ−ΓλκβΓκγα=0
と計算できて(同じ色がキャンセルします)、第一ビアンキ恒等式が示されました。
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6. 第二ビアンキ恒等式
∇αRμνβγ+∇βRμνγα+∇γRμναβ=0
Check
共変微分のヤコビ恒等式をベクトルVμに作用させることで、導くことができます:
0=([∇γ,[∇α,∇β]]+[∇α,[∇β,∇γ]]+[∇β,[∇γ,∇α]])Vμ=[∇γ,[∇α,∇β]]Vμ+cyclic term=∇γ([∇α,∇β]Vμ)−[∇α,∇β](∇γVμ)+cyclic term
となりますが、ここで第一項は(2)式、第二項は(4)式を用いることで計算できます。なぜなら、共変微分は共変ベクトルとしての変換性をもち、それによって(∇γVμ)が(1,1)型混合テンソルとしての変換性をもつためです。ちなみに、cyclic termとは、α→β→γのように添字を入れ替えた項が隠れているという意味です。それぞれの式を適用させると、
0=∇γ(RμναβVν)−(Rμναβ∇γVν−Rλγαβ∇λVμ)+cyclic term=(∇γRμναβ)Vν+Rμναβ∇γVν−Rμναβ∇γVμ+Rλγαβ∇λVμ+cyclic term=(∇γRμναβ+cyclic term)Vν+(Rλγαβ+cyclic term)∇λVμ
となります。赤文字はキャンセルした項を表しています。この式の第二項は第一ビアンキ恒等式ですので0になります。任意のベクトルVνについてこの式が成り立つためには
∇γRμναβ+cyclic term=0
が要請されるので、これはまさに示したかった第二ビアンキ恒等式となります。
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7. アインシュタインテンソルの発散が0
∇μGμν=0
(どうでもいい注)この式があるからこそ、アインシュタイン方程式Gμν=8πGTμνは∇μTμν=0というエネルギー・運動量保存則を自動的に満たすのです!
Check
∇αRμνβγ+∇βRμνγα+∇γRμναβ=0
に対して、μとβで縮約をとります。つまりβ=μとしますと、
∇αRνγ+∇μRμνγα−∇γRνα=0
とリッチ(Ricci)テンソルでかける項が現れます。さらにgνγ掛けてさらに縮約をすすめると、
∇αR−∇μRμα−∇νRνα⇒∇μ(Rμα−21gμαR)=0=0
となり、∇μGμν=0が成り立つことが示されました!
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あとがき
やっぱりテンソル(の成分)の計算ってめんどくさい笑
ビアンキ恒等式の証明を忘れていたので、もう一度示すのが大変でした。
昔のノートはいったいどこに消えたのかわかりませんが、今後はこのようにしてデジタル媒体に残しておかないと、また計算しないといけない時に大変な目にあっていしまいます。
複雑な計算は絶対わすれるので、Webに残そう!
読んでる本:須山輝明『重力波』(2025),SGCライブラリ