並行移動
曲がった空間をどう知覚するか
下記、数学的な厳密な話をしていないので注意しながら読んでください。
ここで述べたいことは、今いる空間が、それよりも大きな次元の平坦な空間に埋め込むことなしに、曲がっているかどうかを知覚できるか、ということについて書きます。
簡単のために2次元空間を考えましょう。2次元空間の平面に対し、
は「曲がった空間」です。例えば紙面やボールを想像してみてください。
なぜ、わたしたちがボールのような物体に対して「曲がった空間」であると知覚できるかというと、ボールの全体像をみることができるからです。つまり3次元空間に埋め込まれた2次元の曲がった空間を見ているわけです。
逆にボールの表面を這うアリの視点からみれば、曲がったかどうかは知覚できません。同様に、地球上に住む観測者にとってみれば、地表は日常の感覚でいえば平面です。知識として、わたしたちは地球が球であることを当たり前に知っていますが、地球平面節が蔓延ってきた歴史があるように、なんの前提知識がなければ、球であることを気づくためには工夫が必要です。
同じ方向を向いたまま閉曲線を一周する
曲がった空間(2次元球面)として地球を考えてみましょう。点Oを北極、点A、Bは赤道上の点であるとしましょう。この点Aは本初子午線(経度0度)、点Bは東経90度とします(下記図参照)。

北極Oにあるベクトルv1があるとしましょう。単純に、北極から点A方向の南向きに体を向けて、赤道に向けて南下する旅を想像してみてください。
赤道の経度0度の点Aに到着したとき、経度0度を沿ったベクトルはv2となりますね。このときベクトルは南を向いたままですね。
そのまま、1万kmほど東に進み、赤道直下の東経90度であるBまで向かいましょう。ベクトルv3もまた南を向いたままです。v2とv3の向きは変わらないように見えますね。
ベクトルの方向を南に向けたまま、北極Oへ戻りましょう。するとv4になります。
おや、並行移動しかしていないのに、v1とv4が一致していないじゃないですか!
ここまで、ベクトルへの回転操作は施していません。ただ、同じ方向を指し示したまま球面上を並行移動させただけです。
実は、ある空間において、ベクトルを閉曲線C上にそって並行移動させると、その前後でベクトルの向きは一般に一致しないのです(経験的に空間が平坦なとき(平面)では、並行移動でベクトルの向きが変わることはありませんでした)。
並行移動を定式化する
曲がった空間上での並行移動を考えましょう。点Pで定義されるベクトルAμ(P)から微小に離れた点Qまで並行移動させたベクトルを、点Pの情報で
A∥μ(P→Q)≡Aμ(P)−Γμαβ(P)Aα(P)Δxβ
と書かれると定義しましょう。ここでΓはChristoffel記号です(測地線方程式の導出)。空間が曲がっているので、Aμ(Q)と点Pから点Qまでに並行移動させたA∥μ(P→Q)はほとんど一緒なので、A(Q=P+Δx)だと思って、展開すると
Aμ(Q)−A∥μ(Q→P)=(Aμ(P)+∂νAμ⋅Δxν)−(Aμ(P)−Γαβμ(P)Aα(P)Δxβ)=∂νAμ(P)⋅Δxν+Γανμ(P)Δxν≡∇νAμ(P)⋅Δxν
となります。最後の行で導入した∇νは共変微分と呼ばれる演算です。
(Christoffel記号は基底ベクトルの変化率です。この変化の影響を差し引いた微分が共変微分です。スカラーは基底ベクトルをもたないので、共変微分と偏微分が等しくなります)
共変ベクトルの共変微分
スカラーの共変微分はただの偏微分になるので、Aμの変換性がスカラーになるようにAμAμを作って、これを共変微分してみましょう:すると共変ベクトルの共変微分は
∇ν(AμAμ)(∇νAμ)Aμ+Aμ∇νAμAμ(∇νAμ−(∂νAμ−ΓαμνAα))⇒∇νAμ=∂ν(AμAμ)=(∂νAμ)Aμ+Aμ∂νAμ=0=∂νAμ−ΓαμνAα
となります。
2階テンソルの共変微分
2つの共変ベクトルの積が2階テンソルと同じ変換性になることから、2階共変テンソルTμνの共変微分は
∇μTαβ=∂μTαβ−ΓνμαTνβ−ΓνμβTαν
となります。
反変テンソルTμν、混合テンソルTμνも同様ですし、さらに高階のテンソルについても同様です。
計量テンソルの共変微分
計量テンソルは一般相対性理論におけるテンソルのなかでもっとも重要と言っても過言ではありません。これの共変微分は
∇μgαβ=0
となります。
Christoffel記号Γμαβ(測地線方程式の導出)が計量テンソルで書ける場合を採用すると、
∇μgαβ=∂μgαβ−Γνμαgνβ−Γνμβgαν=∂μgαβ−21gνρ(∂αgμρ+∂μgρα−∂ρgμα)gνβ−21gνρ(∂βgμρ+∂μgρβ−∂ρgμβ)gαν=∂μgαβ−21(∂αgμβ+∂μgβα−∂βgμα)−21(∂βgμα+∂μgαβ−∂αgμβ)=∂μgαβ−∂μgαβ=0
と、計量テンソルの共変微分が確かに0になることを示せました。
あとがき。
須山輝明『重力波』(2025),SGCライブラリ
を読んで、えっちらおっちら計算を追っていいます。一般相対論自体は勉強している前提なので、並行移動についても知っている前提になっています。
このノートには基底の議論からやろうと最初は考えましたが、仕事が忙しいので、別の教科書をよんで補足を書きます🙇
久しぶりにテンソル(の成分)の計算をして楽しかった〜。